デザインTシャツ【コウシュ】のブログ
ロバート・インディアナ作の彫刻「LOVE」。
西新宿の一角にあるあれね、と思い浮かべる人もいれば、
世界で60箇所以上に存在する他のバージョンを旅先や展覧会で見た、という人もいることだろう。
また、ロバート・インディアナが敢えて著作権をとらなかったこともあり、
世の中にあふれる複製やパロディ、ポスターやおみやげ、グッズなどで馴染みある人もいることだろう。
「LOVE」の彫刻を見たときの感想は、
なんとなく好きだ、とか、かっこいい、とか、これぞアートだ、というものもあれば、
看板みたい、インスタの背景に使えそう、とか、
今の時代的にはちょっと古い、とか、私でも作れそう、等というものもあろう。
各個人が作品にもつ印象や想いは大切にしつつも、
また、アートを理屈で語るのは野暮、という感覚もありつつも、
この「LOVE」を「もっと知る」、「もっとわかる」ために、作品の背景を探ってみよう。
この作品、もともとは、
MoMAのHoliday Card Program(若手アーティスト支援のため1954年から始まったもの)用に
1965年に描いた絵画。
ベトナム戦争の反戦運動が次第に盛んになっていく中、Love & Peaceの象徴として、また、ポップアートとして、人気を博し、
ビートルズの「All You Need is Love」のインスピレーションとなったと言われている。
しかし、作者であるロバート・インディアナ自身は、この作品が有名になりすぎたことを
のちのち後悔している。
“LOVE bit me. It was a marvelous idea, but it was also a terrible mistake. It became too popular; it became too popular. ”
(2014年のインタビュー)
2013年にホイットニー美術館で開かれた展覧会「ROBERT INDIANA: BEYOND LOVE」で
ロバート・インディアナの他の作品に焦点があてられたのは、
「LOVE」があまりに有名になって表面上しか見られることがなくなり、
ロバート・インディアナといえばあの有名な作品の作家だよね、の一言で片付けられ、
その裏にある信念や、ロバート・インディアナの作品の変遷があたかも存在しないかのようになっていたからであろう。
作品「LOVE」にはどのような背景がありどのような想いが込められていたのだろうか?
それには3つの要素があるように思う。
1つは、言葉・単語としての表現。
ロバート・インディアナは高校時代から国語が得意で、
詩を書きはじめていた。
1955年には「WHEN THE WORD IS LOVE」という詩をつくっている。
また、幼少時に通っていたChristian Science(宗教団体)では、
他に何も装飾がない建物の中で、「God is Love」(神は愛)という一文が壁に掲げられており、それだけが際立って見え、
ロバート・インディアナの記憶に強く残っていた。
「EAT」「DIE」など、人が生きることに深く関わりある単語を作品に繰り返し取り上げた中で、
「LOVE」という単語もまた、ロバート・インディアナの中での一大テーマとなった。
COLUMN LOVE(1963-64)
LOVE IS GOD(1964)
(Christian Scienceでよく見ていた「GOD IS LOVE」という文を逆にしている。
美術品蒐集家のLarry Aldridgeが現代美術の美術館をオープンさせる、
その建物はもともとはChristian Scienceが使っていたものだ、と聞いたロバート・インディアナは、
自分の作品も何か置いてもらうべきだと考え、この作品を思いついた)
もう1つは、アメリカの社会や政治、ロバート・インディアナが生きてきた環境やまわりの空気感を表現すること。
ロバート・インディアナの幼少時、アメリカは大恐慌の真っ只中で、
例えば、生まれ育たったインディアナ州の失業率は25%にのぼった。
両親ともに職を探すのに苦労し、貧しい生活を送る中、
父の努めていたガソリン会社Phillips 66の赤と緑の看板はインディアナ州の青い空のもと輝いて見えたという。
ロバート・インディアナは実は養子であったようだが、本人はこれには殆ど触れることなく、
父や母の思い出をいたるところで語っており、
その両親のLOVEや、社会全体のLOVEを、ガソリン会社の看板の赤と緑と、空の青をかけあわせて、明るく、温かく、表現したのであろう。
「アメリカン・ドリーム」という言葉は1931年、まさに大恐慌の真っ只中に
ジェームズ・トラスロー・アダムズが著書「The Epic of America」の中で使い始めた言葉ということだが、
ロバート・インディアナは、
アメリカン・ドリームや、母の働いていたDinerの光景、1930年代に流行ったPin Ballなどを
繰り返し作品のテーマやモチーフとして取り上げた。
消費社会を皮肉るように表現した「Pop Art」と自分の作品は異なる、というのがロバート・インディアナの想いであり、
映画「Eat」を一緒にとったこともあるアンディ・ウォーホルは友人ではなく、近くに住む「知り合い」だったと表現している。
そして3つ目は、アートとしての造形の要素。
ロバート・インディアナの作品群を流して見ていくと、
円や四角、星型、いちょうの葉の形、均等に配置された文字や数字、などの決まった形が繰り返し出てくることがわかる。
ロバート・インディアナの中で、
L、O、V、Eという4つの文字を、ミニマルに正方形の中に並べる、ということは
偶然ではなく、長年の創作活動の中で積み上げた結果のものであった。
斜めに傾く「O」の文字は、ロバート・インディアナが新しく生み出したものではないが、
LOVEの意味の本質に迫り、活力を生み出すため、これを使ったと言っている。
(この、斜めに傾く(tilt)という単語もまたロバート・インディアナが好み、上記のアメリカン・ドリームの作品に出てくる文字である)。
そして、もともとはクリスマスカード用の絵画だったものを、
巨大で人々が触ることのできる彫刻に仕上げ直した、というのもまた偶然ではなく、
インパクトある作品とするためのインディアナの創意工夫である。
このような背景を知ったうえで、もう1度、LOVEの彫刻を見たら、心象はどのように変わるだろうか?